チャーチルが現代を切る

20世紀の英宰相ウィンストン・チャーチルの思想から現代内外情勢を評す

老いて元気に生きるには    老人ホームから学ぶ

チャーチルからのメッセージ   変化の時代を生きる



   歳をとっても元気に生きるにはどうしたらよいか。数年で80歳を迎える筆者の最大の関心事のひとつだ。結論を先に言えば①人と話す②運動する③適度に食べる④頭を適度に使うーではないだろうか。
 筆者の母は4年前、99歳で亡くなった。幸い認知症もなく頭脳は明晰だった。ただ、耳が遠く、緑内障で右目が失明し、歩行器を使わなければ歩けなかった。
 筆者はほぼ毎日、母が住む老人ホームを訪問した。入居している老人を思いだすと3つに大別される。頭脳が明晰で自分の足で歩くことができる人、頭脳が明晰だが、車いすか歩行器の力を借りる人、そして認知症を患い、ヘルパーさんの助けが必要な人だった。この人々のうち、頭脳が明晰で、自らの足で歩ける人から、筆者のような後期高齢者が学ぶところは多い。
 老人ホームが企画したイベントがあり、心身ともに元気な老人と花見見物をしたことがあった。90歳以上の老人が対象だった。母のように歩行器や車いすの助けを借りる老人は、子どもや親戚縁者が付き添った。参加した老人は6人。そのうち96歳と93歳の女性二人は自力で歩いていた。
 その二人は老人ホームの従業員や看護婦さんらの歩行にあわせて、速めたり遅くしたりして歩いていた。60歳代の介護者に遅れを足らずに二人は歩いた。私にとって驚き以外の何ものでもなかった。
 数年前101歳で亡くなったこの2人の女性の一人は中学校の元家庭科の教師だった。本人は「授業で先生は立ちっぱなしです。これが良かったのかもしれません」と話していたことを記憶する。ホームの食堂まで長い廊下を歩き、庭を散策していた。またホームの周辺をヘルパーさんと歩いた。
 「ここ数年、目が薄く(悪く)なり、新聞を読むことができなくなりましたが、それまでは毎日読んでいました」と笑みを浮かべて語っていた。
 朝昼夕の食事どきには、歳下の同居者にご飯を茶碗についだり、お茶を入れたりして世話した。当時80 歳代後半で車いすに座っている同居者に何くれとなく世話するのを見かけた。筆者の母と同じテーブルで食事するため、母もずいぶんお世話になった。

 当時96 歳の女性は人と楽しく話し、適度の運動を欠かさず、その上、食欲も旺盛だった。この女性やほかの入居老人を見ていると、人間という動物は食欲がなくなるとき、死への道を歩いているのだと感じる。
 もう一つ言えることは、好奇心を失わず、自助に努めることだと思う。栃木県下野市にあるこの老人ホームは、入居老人の自助努力を促している。いろいろな老人ホームを見たり、聞いたりしたが、従業員やヘルパーさん優先のホームが大半だ。つまり、能率的な仕事ができるように従業員優先の仕組みや規則をつくっている。朝食は7時から8時まで、これとこれはしていけないなどの規則があるようだ。
 この老人ホームは朝食の時間を「何時まで」としていない。ヘルパーさんがあらゆることについて介護するようなことはしない。付き添ってはいるが、できるだけ入居老人が自らの力で行動するように仕向けている。入居当時、歩けなかった女性老人が歩行器を使い、ヘルパーさんの助けを得て歩くようになった老人までいた。これも驚きだった。
  現在、介護専門家として全国を飛び回り、母がお世話になっていた当時34歳だった所長は「ホームは自由な雰囲気にしなければ、実りある最後の人生を過ごせない」と話す。これが彼の介護の基本理念のようだ。
 人間は「人と会話し、適度の運動をし、バラエティーに富んだ食事をする。そして死まで自分の趣味を全うする」中に、実りある老年期を過ごせるのだと理解した。息を引き取るまで、できることは自分でし、できないこともできるように努力することだと、この老人ホームから学んだ。


写真:母が入居していた老人ホーム