チャーチルが現代を切る

20世紀の英宰相ウィンストン・チャーチルの思想から現代内外情勢を評す

中国はどこへ行く      大国の未来を見据え、日本人はいかにすべきか

チャーチルからのメッセージ   変化の時代を生きる


  5年に1度の中国共産党大会が終わり、習近平総書記の権力が著しく強化された。われわれ日本人にとっても「対岸の火事」のような気分で中国の内政を見ていてはいけないと思う。長期的な視野から中国を観察する必要がある。
 この”超大国”が目指す未来は何か。強固な一党独裁と国家資本主義を推し進める中国共産党。習氏は党の最高権力機関「政治局常務委員会」を構成する7人(習氏を含む)を選んだが、後継者を示唆する人事はなかった。
 24日に閉幕した党大会では、習氏の政治理念を「習近平思想」として党の憲法に相当する党規約に盛り込む改正案が承認された。
 習氏は明らかに、新中国建国の父、毛沢東や経済建設の礎を築いた鄧小平に並ぶ地位を確立し、個人的な独裁を強め、中国を米国と並ぶ二大強国にしようと狙っている。彼は「社会主義現代化強国」を実現すると宣言する。
 習氏がこの宣言をする裏には、矛盾した内政問題があると思う。「一人っ子政策」を撤回したと言え、子どもはさほど増えていない。日本と同様、労働人口の減少が間近に迫っている。
 国営企業の民営化は、既得権を持つ共産党員に阻まれ、スムーズには進んでいない。国営企業のシンボルとも言える鉄鋼など重厚長大産業が不況から脱したと言え、借金を重ね、非効率投資で大きくするやり方を変えていない。これでは持続的成長を見込めない。
 10月27日付朝日新聞の朝刊で、現代中国研究家の津上俊哉氏はこう述べた。「30年以降は高齢化による年金の負担が爆発的に増大する事態が待っています。その手前の段階で、すでに公共投資の債務が積み上がっています。国際通貨基金(IMF)は、22年には中国の政府、民間を合わせた債務が対GDP比で300%近くに達すると警告しています。厳しい未来がはっきりしているのに、習氏の報告に抜本的な対策がない」
 すべての権力を集中させようとしている習総書記は、2049年の党建国100周年までには、中国を世界一の強国のする夢を描いている。彼はそれを「中華民族の偉大な復興」と呼んでいる。さらに、共産党の政治報告で、35年という節目を設定した。その年には習氏は82歳になる。
 早稲田大学現代中国研究所所長の天児慧(さとし)氏は「(習氏の82歳は)毛沢東が死去した歳。鄧小平が1992年に南巡講話に赴いたのは87歳の時でした」と話す。
 習氏はいかなる手段を弄しても、自分が亡くなるまで、中国の政治に大きな影響力を行使したいと考えている。あわよくば終生、最高権力者の椅子に座っていたいと望んでいるようだ。
 習総書記は「外国の政治体制を機械的にまねるべきではない」と主張し、西洋の民主主義体制に敵愾心を抱く。
  習近平思想」とはどんなものなのか。

 ◾「完全で深いレベルでの改革」や「新しい発展のアイデア」への呼びかけ
 ◾「人間と自然が調和する生き方」の約束。これは環境保護の向上だけでなく、国内の電力需要の大きな部分を再生可能エネルギーが担うようにするという従来の方針を意味するかもしれない
 ◾「人民軍に対する共産党の絶対的な支配」の強調。同時に現代中国史最大の規模だと専門家らが指摘する軍幹部の入れ替えが実施されている。
 ◾「一国二制度」を経て、本土との統合の重要性。これは明らかに香港と台湾を念頭に置いているとみられる。

 最初の2項目は民主主義制度の中でしか実現できない、と私は信じる。「新しい発展のアイデア」は自由な民主主義制度のなかでしか育むことができない。上意下達の国家主義経済と独裁の中では実現不可能だ。上からの指示では、必ず破綻をきたす。
 「一国二制度」もいずれ、独裁国家、ましてや個人的な独裁を強める習氏の指導体制では行き詰まるだろう。
 そのとき、習氏の目指す「中華民族の偉大な復興」は暴力的な色彩を強めよう。政治学のイロハだが、古今東西、内政で行き詰まった国は、国民の目を国外に向ける傾向が強い。独裁国家なら尚更だ。
 中国の内部矛盾が爆発しかけたとき、台湾問題、尖閣問題が東アジアの「バルカンの火薬庫」になる可能性が強い。そのとき、日本の政治指導者はどうするのか。今の国内政治を見ていると心配だ。
 民進党や希望の党に見られるように、国政選挙で議席を減らせば、党首を罵倒し、首を切れと絶叫する。そこに困難の中で一致団結する精神は微塵も見られない。一方、与党の自民党は、特に安倍政権に言えることだが、国家の大方針を議論もしないで「仲良しクラブ」だけの人々で決める。国会での議論をなおざりにしている。まさに権威主義的な独裁的手法だと断言できる。独裁とは言わないが・・・。
 1940年6月22日、フランスがドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーに敗北し、世界中で英国一国だけがこの強大な独裁国家と闘う事態になったとき、賢明な英国民は一致団結した。一人の偉大な指導者チャーチルのもとにに集まり団結し、英国と民主主義を死守するため、「死しても戦う」と宣言した。
 日本国民も英国民同様、一致団結し、どんな苦境にも耐える民族だ。万一、中国がなりふり構わず襲いかかってきたとき、すっくと立ち上がる偉大な民族だと信じたい。しかしそのとき、日本にもチャーチルのような賢明な指導者が現れるのだろうか。
 北朝鮮を利用し「国難突破解散」と有権者を煽り、それでいて政敵と真摯に「議論」もせず、「北朝鮮に圧力を」と叫ぶ安倍政権と自民党。選挙に負けたら党首を引きずり降ろそうとする野党議員。国家や国民の遠い幸せなどどうでも良いとしか映らない、そこには、「失職させないでくれ。明日から路頭に迷わせるようなことはしないでくれ」と有権者に懇願する多くの政治家がいる。中国共産党大会と日本の総選挙を見ていると、こんな思いが私の胸中を巡り巡っている。
 
写真:党大会の初日に演説する習総書記。